からの続きです。
“ 子どもを信じ抜き、覚悟を持ってやらせる ”
―思春期のころはいかがでしたか?
暴れることで欲求を満たし、さみしさを紛らわしていた思春期に野球に出逢いました。おかんはコーチに「殺さなければ、何やってもいいです。」とコーチに俺を託して。コーチはこの言葉が衝撃的だったそうです。
ここでも恩師や仲間達に支えられたのですが、プロテインが買えないことをコーチが心配して試供品をくれたり、友達のお父さんがご飯に連れて行ってくれました。
練習が辛すぎて「もうしんどいわ。辞めるわ」と、おかんに漏らしたことがあったんです。その時おかんは「やめろ!やめろ!行くな!」とバッサリ。そんな風に言われたら、「はい、行って来ます。」と押し出されるように行っちゃいましたね。
「おかん強!こわ!」と(笑)
150%子どもの事を信じてるから言えたと思うし、おかんが信じてくれてるから、やるしかないっていう気持ちでしたね。それくらい子どもを信頼して、強く言えるのって凄いですよね。野球をやるのには、お金もかかってたから『それなりの覚悟を持ってやらせる』という親の役割も果たしてくれました。
*母に支えられ甲子園を目指していた弟、卓麻さん
“ 兄弟のちがいとよしえイズム ”
―お兄さんとの関係はいかがでしたか?
兄ちゃんは大学に行ったけど、自分は大学をガマンしたので、兄ちゃんを羨ましいと思っていました。俺は高校を出てすぐに働き始めて、兄ちゃんに毎月1万円を仕送りしていたこともあって「フザケンナ!」って最初は思ってたけど、おかんが困っているから、おかんのために、兄ちゃんに仕送りをしていたんですよね。
大学4年の時は兄ちゃんの学費が払えなくなって、お金を工面するために親戚に頭を下げてお金を借りにいったこともあります。あの時はおかんの真剣さに流石にやばいと感じて、おかんを助けるために一緒にお願いしに行きました。あれも結構つらかったですね。
だけど兄ちゃんも成人式の時に買ってもらったスーツを、ボロボロになるまで着てるのを見たり、腹を割って話すと兄ちゃんもたくさんの苦労をしていたことを知りました。
なんで俺だけって思っていた頃もあるけど、今は笑い飛ばせます。その分強くなれたんでよかったと思います。卑屈にもならなくなりましたね。これも“よしえイズム”の一つです。
*よしえさんのお金の苦労が伺えるメモ。
“ 母からの言葉は自分たちが迷った時に心の羅針盤 ”
―母よしえさんの最期
おかんの癌が見つかった後、俺の友達も心配してくれたんですよね。おかんは友達にも「よしえちゃん」とか呼ばせて、仲くしていたので。みんながおかんを応援するためにいろんな人に声を掛けてくれて、500人を超える人たちからメッセージをもらって『よしえノート』を作ってくれたんです。
それを病院に持って行った日、ちょうど抗がん剤治療の日で、いつもは抗がん剤治療の日はつらすぎて、俺を帰らせるんですね。だけどこの日は「痛みが和らいだ」といって一日ラクに過ごせたんですよね。
「これは一億円積まれても、絶対手放せない宝物」って言ってくれたんです。
*カラオケで卓麻さんの友人たちと盛り上がる元気だった頃のよしえさん
*卓麻さんが表紙を書いたよしえノート
「たっくんは人に恵まれてるから、これからも人を大事にしなさいよ。感謝を返せる人になりなさい。それが当たり前になっちゃダメだよ」って。おかんの喜んでくれる顔が嬉しかったですね。
おかんは病床にいながら友達の悩みを聞いているような、自分を置いてでも人を大切にする人でしたから。
苦難をどうやって明るい方向に持っていくかをおかんは教えてくれました。
お金についても「人のためにいい事をし続けていると、めぐりめぐって何か不思議な力が働く。」という経験があって。おかんは癌になる半年前に他の病気が見つかり、それをきっかけにがん保険に入っていたおかげで、入院費が全て払えたんです。おかんは結局、何も迷惑をかけないで、“心”をたくさん残してくれて逝ったんですよね。
*よしえさんの”生きたい”という片鱗が見えるメモ
*よしえさんが亡くなる2週間前
―ずっと見守っていてくれるおかん
おかんが亡くなったあと、お墓を選ぶときに、兄ちゃんが「おかんは角のない人だから丸にしよう」って丸いお墓を選んだんです。高かったけど「兄ちゃんいうならそうしよう」って。
おかんの合言葉は『日々感謝』だから、それを墓石に刻んでます。常におかんの中に感謝があり、その中にも「負けねーぞ」という強い心もありましたね。
本当におかんは太陽みたいで、太陽を見るとおかんがいるなと思えるんですよね。丸くて暖かくて、ずっと見守っててくれていますね。
*よしえさんの墓石にて
“ 日本一の母・日本一の兄弟 ”
―“兄が作った、おかんの手紙集”
おかんが亡くなった後、兄ちゃんはおかんからもらった手紙を全部取ってて、それを葬儀場で『よしえノート』としてまとめてくれたんです。おかんが残してくれた手紙や言葉、想いがいっぱい詰まったノートで。
よしえノートが完成して、自然に兄弟の間で出て来た言葉が「ここからだっ‼︎」、「おかんの生きた証を俺らで証明していこう!」でした。おかん自身が「私は日本一の母親だ!」と断言していたので、俺たちは“日本一の兄弟になろう!”と決めたんです。
実は俺らは小学校の高学年以降、全然仲が良くなかったので、今こんなに兄弟が仲良くなると思っていなかったですね。おかんが最期ずっと願っていた事だったし、おかんが繋いでくれた縁だからこそ大事にしたいと思います。
今いがみ合っている兄弟たちには、「絶対仲良くした方がいいよ」って伝えたいですね。同じ遺伝子を受け継いだ兄弟って俺らしかいないですからね。兄弟を残してくれたことも、おかんに感謝していますね。
―“恩返し”という使命
兄ちゃんの小学校のクラスの道徳の授業で、弟の俺が教壇に立たせて貰ったこともあります。不思議な縁や、使命を果たせる機会を、兄弟で体験させて貰ってますね。
今では、俺は木更津で「ピンクシャツ運動」という”いじめ防止”の活動をしているんですけど、荒れていた小学校時代に、弱い奴をいじめていて大人になってその中の1人と会って謝ったんです。活動をしていることも話したんですけど、「人って変われるんだね」と言って貰えて。
自分の経験が人の役に立つって嬉しいですよね。「片親っていう宿命がありながらも“恩返し”という使命に変えて行く」ということも、おかんに教わったと思いますね。
―お二人の結婚・家族に対する思い
俺の奥さんも片親なんですけど、嫁のお義母さんに、俺が片親という理由で結婚を大反対されて、兄ちゃんが説得に来てくれたこともありました。
ずっと手紙を送り続けて、やっとお義母さんが認めてくれて『相手は変えられないから、最初に自分が変わる、やり続ければ叶う』っていう経験もしましたね。
これに耐えられたのもやっぱり、おかんが教えてくれた“苦難を喜びや楽しみに変える”という生き方をしてきたから、自分は折れなかったし、おかんとこれまでつらい事を乗り越えてきたからこそですね。
今ではお義母さんとは仲良くしていて、嫁には結婚してくれた事に感謝してます。年取っても仲良くしたいですね。
(兄)隼土さん:
おかんは自分が姑に意地悪をされたので、息子の嫁には絶対に優しくしようと決めていて、俺の嫁もおかんとは仲良かったですね。嫁はすごく大事にしてもらって、嫁もおかんのことを大好きでいてくれました。
4年前に僕が抑鬱状態になったんですけど、その時、嫁は「教師の替わりはいくらでもいるけど、あなたの替わりは誰もいないからね。やめていいよ」と言ってくれました。
それが心に響いたし、おかんが作ってくれたものを引き継いでくれているのかなと、嬉しく思いました。
―“シングルペアレントに向けて”
『預けた人に委ねる』これもシングルマザーに伝えたいことです。心配なのはわかるけど信頼して預ける、その中で成長を見守るってことが大事だと思います。
こんなポジティブおかんですが、シングルマザーでたくさんの苦労をして来ました。みんな日々大変な中生きています。それをどう捉えて、どう生きるか。ただそれだけだと思います。
『人生は楽しい』、そう思って笑顔で毎日を過ごせる人が、一人でも増えてもらいたいですね。
*”日本一幸せな母” よしえさんの手書きメッセージと共に。
取材を終えて
穏やかな中に熱い思いと行動力がある兄の隼土さんと、明るく軽やかで柔軟な卓麻さん。
2人の、母よしえさんへの感謝の気持ちが溢れていました。
インタビュー中も記事のライティング中もよしえさんが側にいる気がして、「しっかり書かせて頂きます!」と身の引き締まる思いでした。
よしえさんが残してくれた、明るく強く真っ直ぐに子ども達を愛したエピソードに、何度笑って何度泣いたかわかりません。今置かれた環境を、精一杯生きる大人たちが目の前にいる事で、子どもはここまで逞しく生きていけるんだなと感じました。シングルマザーとしては少しでも快適に、何不自由なく育ててやりたいと思いがちですが、辛さを経験したからこそ得られる“優しさ”をはっきりとここに見させていただきました。
“母は強し”と言ったものですが、私もよしえイズムを胸に、人を信じ、人とのつながりをとことん大事に感謝し、明るく笑って背一杯生き抜く!その姿を息子達に見せ続けたいと思います。
隼土さん、卓麻さん、それからよしえさんに、心から感謝します。
隼土さんは「今は亡きあの人に伝えたい言葉」の手紙公募で入選。書籍に隼土さんの「7年後の兄弟より」が掲載されました。
卓麻さんは喋るのが得意!ご自身のラジオ番組「たくまのkokoroここからだ!」でよしえさんや祖父母、兄との愛と笑い溢れるエピソードをお話しされています。私もお二人の活動を応援したいと思います。
*インタビューアー土井香奈、卓麻さん、隼土さん、代表 山中と、”よしえノート”
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